2010年 03月 21日
ハナチョウジ 『ほぐす』 小包みの紐の結び目をほぐしながら思ってみる 結ぶときより、ほぐすとき すこしの辛抱がいるようだと 人と人との愛欲の 日々に連らねる熱い結び目も 冷めてからあと、ほぐさねばならないとき 多くのつらい時を費やすように 紐であれ、愛欲であれ、結ぶときは「結ぶ」とも気付かぬのではないか ほぐすときになって、はじめて結んだことに気付くのではないか だから、別れる二人は、それぞれに記憶の中の、 入りくんだ縺(もつ)れに手を当て 結び目のどれもが思いのほか固いのを涙もなしに、なつかしむのではないか 互いのきづなをあとでたつことになろうなどとは 万に一つも考えていなかった日の幸福の結び目 その確かな証拠を見つけでもしたように 小包みの紐の結び目ってどうしてこうも固いんだろう、などと 呟きながらほぐした日もあったのを寒々と、思い出したりして 吉野弘詩集 『素直な疑問符』より
by yumahina
| 2010-03-21 20:26
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